2度見ることのススメ
こんにちは。3度の飯より映画が好き。新川教室の吉田です。
……うそです。ご飯の方が好きです。ごめんなさい。
──さて。
“アニメの当たり年” と言われた2016年。
『君の名は。』は言わずもがな。
京都アニメーション制作の良作、『聲の形』。
そしてその締めくくりが、『この世界の片隅に』でしょうか。
2016年11月、ひっそりと小規模にスタートしたこの作品は、メディアによる宣伝など皆無のまま、ひたすら口コミでその評判が広がっていき、今なお上映館を増やしつつ、ぼちぼち大ヒットと言ってよい域にまで達しています。
そんな作品を見逃す手はない!
ということで、渋谷のユーロスペースまで足を運んだのが昨年の12月。
劇場は超満員で、この時代に立ち見のお客さんまでいる盛況ぶりでした。
どのような話なのか、まったく知らないままに観た『この世界─』。
正直に言います。よくわかりませんでした。
『君の名は。』のように時系列が入り組んでいて、物語の構造が複雑だとか、そうことは一切ありません。
ただただ純朴な主人公の “すず” がいて、生きて、戦争に巻き込まれて、生きて、いくつかの大切なものを失い、いくつかの大切なものを手に入れる──
そういうお話です。
だから僕がわからないというのは、有体に言えば、「何が良いのかわからない」ということでした。
多くの人が、良い、と言っているが、一体何をもって良いと言っているのか。
一方で、負の評価を下しているのは、原作ファンのみだとか。
ふーん、と僕は思いました。
映画史的に傑作とされている原作ありきの映画作品は、たいてい原作とはまるで別物になっているものだからです。
『2001年 宇宙の旅』しかり。
『惑星ソラリス』しかり。
ううむ。傑作たる必要条件を満たしている『この世界-』。
やはり何かあるのかもしれないと、悶々とすることおよそ1月半。
その間にも『この世界─』の人気と評価はうなぎ登りで、気づけば吉祥寺でも公開しておりました。
もう1度観よう──そう思いました。
『君の名は。』のときも1度ではあの作品の完成度の高さを理解できず、2回目でようやく認めることができました。
思えば宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』の時もそうでしたね。
はたして今回もそうなるのか?
……
なりましたね、今回も。
結果、とても良い作品だと認めることができました。
ただ、前者2作品については、その物語のもつ圧倒的な力に捩じ伏せられないよう、全てを受け止める努力が必要(見る側は常に受け身)だったのに対し、『この世界─』の良さをきちんと理解するには、見る側の積極的・能動的な態度が要求されました。
あの話をただ茫漠と眺めているだけでは、その良さは決してキャッチできないと僕は思います。
主人公すずにとって、広島とは何なのか、呉とは何なのか、戦争とは何なのか、絵を描くとはどんな意味を持つ行為なのか……
そういった諸々のファクターに意味を付与していかなければ、単純に「面白い」とは言い難い作品でしょう。エンターテイメント的要素はかなり少ない作品ですから。
しかし、そのように意識的にコミットすることで、数倍(へたをすれば数十倍)もの素晴らしい作品として昇華させることができたと思います。
いやはや、2度観てよかった。
このように1度だけでなく、2度向き合うことによって理解できること、腑に落ちること、認められることは、生きていればたくさんあって、たとえば生徒の皆さんがいま向き合わなければならない、試験問題だって同じことが言えます。
1度読んで、無理ぽ…と感じた問題も、ある程度情報を得た上でもう1度じっくり対話するように読んでみると、「ああなんだ、そういうことか」とすんなり解けてしまったり、「もしかしたらこういうことかもしれない」と解法への手がかりを嗅ぎつけられることが多々あります。
初見で諦めず、もう1度向き合ってみる。そういう姿勢をもって受験というシーズンを乗り越え、その後の人生にも活かしていってもらいたいものです。
なーんて、こんな教訓ぽいことを書くと肩が凝りますね。
読む側もつまらないでしょうし。
まあ私立高校の入試が始まり、都立高校まで残り2週間となる今日くらい、マジメな話をしてもいいのかなと、そんな気分で語ってみたような次第なので、その辺はどうかご容赦くださいませ。