切ない話三種盛り
こんにちは。
年が明けても大して変わり映えのしない新川教室の吉田です。
あ、「変わり映えのしない」は「新川教室」ではなく、
「吉田」にかかる修飾部ですよ、もちろん。
念のため。
さて、冬期講習中のことですが、ある生徒(中3)と本について話をしていると、
その生徒が「切ないラブストーリー」が好きだということが判明しました。
切ない、ということは、すなわち「成就しない恋」=「失恋」です。
なるほど、なかなか見込みのある子じゃないか……と心の中で独り言ち、
そのようなカテゴリーに分類される作品をもし僕が知っているならば、
ぜひその子に紹介したい、そう思いました。
──失恋。
真っ先に思い浮かんだのは、『グレート・ギャッツビー』でした。
言わずと知れた、スコット・フィッツジェラルド不朽の名作です。
しかし、『グレート・ギャッツビー』のもつ、なんというか、あの、
“美しき悲哀” とでも形容すべき感傷が、はたして中学生にわかるだろうか……
という懸念が拭えず、口ごもります。
僕自身、
大貫三郎訳を読んでもさっぱりわからず、
野崎孝訳を読んでもまったくわからず、
村上春樹訳を読んでも結局わからず、
映画『華麗なるギャッツビー』を観て、ようやく少しだけわかった(ような気がする)、
とまあ、そういう作品なのです、グレート・ギャッツビーというやつは。
(最終的には、原文で読むしかないだろうと思っていますが、いつの日になることやら)
次に脳裏をよぎったのは、『冒険者たち──ガンバと十五匹の仲間たち』。
これは僕が小学3年生のときにハマった作品で、
ネズミを擬人化して描いた素晴らしい冒険譚です。
この作品を通して、僕は、アニメや映画などの追随を許さない、
小説という表現媒体だけがもつ豊かさや広がりを知ったのでした。
ですから、この文脈に関係なく、世界中の子供にこの本を読んでほしい!
(トトロもいいけど、ガンバもね)
とずっと以前から思っていますし、
今年の初詣の際もそう祈願しました(嘘です)。
とはいえ、やはり児童文学という枠を考えますと、
中学3年生にお勧めするにはいささか子供っぽすぎると思われ、
これもまた保留。うーん。
──失恋。
そうだ、なにも小説にこだわることはない。
とすれば、アレがあるじゃないか。
ある種の開き直りが、僕の中の閉じられた引き出しをこじ開けました。
『ハチミツとクローバー』。
通称「ハチクロ」。
僕の中の “少女漫画・不動の第1位” です。
ハチクロにはすべてが詰まっています。
希望と失望。
笑いと涙。
友情と慣れ合い。
仲間と孤独。
優しさと憎しみ。
獲得と喪失。
研鑽と怠惰。
思いやりと自己憐憫。
強さと弱さ。
静謐と喧騒。
生と死。
そして、恋愛と失恋。
ハチクロがすごいのは、こういった対比的なモチーフ群を、
丸ごとポジティブなベクトルへと向かわせているところです。
その結果、最終的には全員が救われるのですが、
それは単なる「楽観主義的ハッピーエンド」とは根底から異なる、
人間賛歌であり、人生賛歌であり、
すなわち、物語として寛容さ(=良いところも悪いところもぜんぶ含めて、
人間というものを丸ごと肯定する態度)を示すエピローグなのです。
作者の羽海野チカさん(敬愛してやまない)は、
キャラクターの想いを詩的なモノローグとして語らせる手法がお得意で、
僕はそれが大好きなのですが、
中でもとりわけお気に入りのシーンがありまして、
それは、決して叶わぬ恋と知りつつも、
着慣れない浴衣を身にまとって臨んだ夏の花火大会にて、
意中の男子に「ユカタ似合うな」と言われた女の子の心中です。
その
たったひと言がききたくて
髪を結って
キモノを選んで
大さわぎして
着付けして
慣れない下駄を履いて
……ドキドキして
他の誰の為でもなく
あなたのその
ひと言のために
願いを込めて
ほんの少しでも
少しだけでも
あなたの心が
私にかたむいてくれないかって──
どうして私は
夢をみてしまうんだろう
くり返し
くり返し
あきもせず
バカのひとつ覚えみたいに
……切ない。
切ないですねえ、まったく。
恋をしたことがある人なら、100%共感すること必定です。
とはいえ、もちろん物語としての文脈があり、漫画としての描写があってこそなので、
この引用だけで共感するのは難しいかもしれませんから、
いまだ未読の方には、ぜひとも一読して頂きたいものですね。
(アニメや実写化された映画はあまりお奨めしません。
羽海野チカさんの描く作品は、色を着ければ着けるほどかえって色褪せていくという、
ちょっと特殊な成り立ちをしているので)
……とまあ、このような感慨をすべて飲み込み、たった一言。
「ハチクロ読んでみたら?」
と、その生徒には伝えました。
うーん、読んでくれたら嬉しいんだけどなあ。
羽海野チカさんは現在『3月のライオン』を連載中です。
これまたアニメにも実写映画にもなっているので、ご存知の方も多かろうと思います。
こちらも大好きな作品ですので、機会があればその魅力をお伝えしたいですね。
でもそれもまあ、とりあえずは連載が終了してからでしょうか。
物語の評価は、とにかく全部読んでみてから──
が基本ですので。