歯科医院と論理的整合性
こんにちは。先月ブログを書きそびれてしまった、新川教室の吉田です。
忘れていたわけでは決してありません。
タイミング的に、都立入試本番を直前に控え、
何を語るべきか、どうしても心が定まらなかったからです。
普段、仕事とはあまり関係のない話を書くことの多い僕ですが、
教え子の正念場が迫っている中、
入試と無関係なトピックを取り上げることはさすがに憚られ、
かと言って、入試そのものについて言及しようとすると、
月並みで、陳腐で、有体な、
受験生を励ます定型句を書き連ねてしまいそうで、
どうしても筆が進まなかったのです。
どうかご容赦ください。
さて、そんな都立入試も無事に終わったということで、
何の憂いも、気遣いもなく、お仕事とは全く関係のない話をしようと思います。
およそ一年前、HARIBOのグミ『ハッピーコーラ』で歯の詰め物がとれた話をしましたが、
つい先日、またもや全く同じ現象が起こりました。
久しぶりに買ったHARIBOのハッピーコーラ。
ひと噛みするやいなや、左奥歯の詰め物がものの見事に外れてしまったのです。
まあ、詰め物の下ではだいぶ虫歯が進行しており、
結果としては致命的な段階に達する前に発見できたことになるので、
HARIBOさまさまというところでしょうか。
美味しいグミであるだけでなく、虫歯の早期発見にも役立つHARIBO。
すばらしいお菓子ですね。
とまあそのような次第で、否応なく歯医者のお世話になることに相なったわけです。
はじめて伺う近所の歯科医院。
少し不安でしたが、院長先生がとても丁寧に診察してくださり、
数分後にはすっかり安心して、リクライニングチェアに横たわっておりました。
その医院は、診療室がすべて個室になっていて、
他の患者さんの様子は、壁越しに聞こえてくる音や声によって伝わってきます。
──と、僕の隣の個室に、どうやら常連さんと思しき患者さんが入っていらっしゃいました。
その声色や語り口からして、おそらく60歳前後の女性だと推測できます。
先に診療室で待っていた歯科助手さんとも顔なじみらしく、
歯科医院とは思えないほど明るいテンションで挨拶を取り交わしています。
「こんにちは~。〇〇さん、お変わりないですか~?」
「ええ、おかげさまで、元気元気!」
まるで今から女子会が始まるみたいなテンションやな~と思いつつ、
その後の会話に耳を傾けていると、
「〇〇さん、歯は抜けました~?」
「うん、抜けた抜けた!」
「そうですか~。これからどんどん抜けていきますからね~」
「そうよねえ、キャハハハハハ」
……
……
……ええ!?
歯が抜けていくって、そんな深刻な事態を、そんな軽いタッチで!?
僕にはまったく理解できませんでした。
しかも、キャハハハハハって……
常連の〇〇さんは、今後歯が次々に抜けていくという凄絶な運命を、
笑い飛ばせるほど完璧に受け容れているということなのでしょうか。
それとも、歯科助手さんのライトな口調から察するに、
あえていったん歯がぜんぶ自然に抜ける状態にして、それから根本治療を施していくという、
そういう画期的な治療法が存在するということなのでしょうか。
うーん。
いずれにせよ、にわかには信じられません。
自分の歯のことなどすっかり忘れ、僕は悶々として、
いま隣の部屋で交わされた会話の論理的に整合性のあるコンテクストを考えていました。
──と、
「かわいい盛りですねえ」
「そうなの~、目に入れても痛くないって感じ♡」
……
……
……あっ!
あっああ~~
なるほど、そういうことですか~~
お孫さんの歯が抜けたってことですね。
そりゃあ抜けていきますよねえ、どんどんと。
ええ、ええ、かわいい盛りでしょうよ、そりゃあもう。
……
……
……はあ。
なんか疲れた。
論理的整合性なんて、蓋を開けてみれば、こんなものなんですね。
ある文脈において極めてロジカルな会話が、
別の文脈にトレースした途端、極めて奇異なものに聞こえる。
まるでアンジャッシュのコントを生で体験したような数分間でした。
その後、悪くなっている箇所がいくつか見つかり、
それらの治療のため、今だ通院中です。
いくつになっても歯の治療は苦手ですが、
この際、徹底的に直してもらおうと、腹をくくった次第です。