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コリラックマはゴリラではない

新川教室

こんにちは。新川教室の吉田です。

昨日、通勤のバスの中で、ちょっと微笑ましいシーンに立ち会ったので、ご報告を。

 

僕は前を向いて左側の一番前の席に座っていました。

ちょうど運転席が斜め前方に見えるポジションです。

と、ある停留所で、車椅子の方が乗車しようと手を挙げていらっしゃいました。

それを見た運転手さん(40代半ばと思しき男性)は、

即座にシートベルトを外し、素早く運転席から飛び出すと、

車体の中ほどにある降車口から渡し板を引っ張り出し、

自らの手で車椅子を押して、そのお客さんを乗車させてあげていました。

車椅子の方を乗車させる場面に遭遇したのは初めてだったので、

へえ、こんなふうに乗せてあげるんだ……と素朴に感心すると同時に、

サービス業とはいえ、現代日本における福祉精神の体現を目の当たりにし、

なかなかどうして悪くないものだと、ちょっとした感慨にふけるのでした。

 

──それはさておき、です。

僕の言う「微笑ましいシーン」とは、この光景そのもののことではありません。

この光景に付随的に垣間見えた、ほんのささやかなワンカットです。

 

運転手さんが福祉的業務に励んでいらっしゃる様子をひとしきり眺めた後、

ふっと視線を前方に戻すと、ドライバー不在の運転席が目に入りました。

すると、基本的に寒色で統一された運転的に似つかわしくない、

黄色い座布団が敷かれているのに気がつきました。

黄色い座布団?

どんなデザインなのだろうと目を凝らすと、それはリラックマの座布団なのでした。

リラックマの座布団──

僕は思わず想像しました。

おそらくこの運転手さんには小学生の娘さんがいて、

父の日か、パパの誕生日に、この座布団をプレゼントしたのだろうと。

 

その女の子はきっと母親に相談したに違いない。

「ねえママ。パパに何をあげたらいいかな?」

「そうねえ。パパはバスの運転手さんだから、座布団なんかいいんじゃないかしら」

「座布団? どうして?」

「一日中座っているお仕事だからね。おしりが痛くなっちゃうと思うのよね」

「そっか。なら座布団にする!」

このようにして女の子は、座布団を選んだに違いない。

自分の大好きなリラックマの座布団を。

父親の性別とか、年齢とか、立場とか、体裁とか、

そんなものは一切関係なく、ただただ自分にとってベストなものが、

父親にとってもベストであると信じて疑いもせず……

 

そんな純粋な想いのこもった贈り物を、父親が喜ばないはずがありません。

照れくさいながらもその座布団をおしりの下に敷いて、仕事に励みます。

時々、同僚のドライバーにからかわれます。

「おや、ずいぶん可愛らしい座布団ですねえ(笑)」

「いやあ、ほんとはこんなの恥ずかしくて嫌なんだけど、娘が使えってうるさくてね」

よく見れば、だいぶくたびれた感のあるリラックマの座布団。

プレゼントされたのは、もう何年も前のことかもしれません。

それをずっと使い続けているパパ。

キイロイトリを「ひよこ」って呼んじゃうパパ。

コリラックマって、ぜんぜんゴリラっぽくないよな、って言っちゃうパパ。

どっちかっていうと、パパの方がゴリラっぽいよ、って言われちゃうパパ。

……微笑ましい。

 

と、こんな空想をしている間に、件の運転手さんは席に戻り、

淡々と業務をこなしていらっしゃいます。

がんばれ、パパ!

そう僕が勝手にキャラ付けした運転手さんに向かってエールを送ったとき、

ふと別の可能性があることにも気がつきました。

この運転手さんは、独身で娘もいない、ただのリラックマ好きのおじさんかもしれないと。

うーん。

まあ、それはそれで、微笑ましいことに変わりないか。

そう結論付け、納得の面持ちで僕はバスを降りたのでした。

見上げると空は高く、澄み渡っていました。

 

この話を、全国の働くお父さんと、リラックマラバーに捧げます。

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